2009年10月26日月曜日

日本航空(9205) その3

この件を見ていて、通常の再生事案に比べ、非常に不自然に思った点がいくつかあります。

1.日本航空の再生は誰ために行うのか?
さまざまな記事がこの会社が他社に落伍した経緯を述べていますので、その点については割愛しますが、基本的に行わなくてはならない事項は明らかで、コスト構造改善、年金債務解消、過大債務解消に整理出来ると思います。これらの問題点を当事者である日本航空の役職員、そのOB、そして多数の不採算路線を押し付けてきた国(国土交通省)、資金供出元である債権者(金融機関)、らが主体的に取り組めば解消するはずの事柄です。

しかし、今までのメディア報道を見ていると、全く当事者が主体的に取り組んできた様な内容は伝わって来ません。役職員、OB、債権者とも、相当な「血」を流す事になるのですが、この取り組みが彼らのためになる、という理解があり、施策実現に協力的であればよいのですが、その様な展開は現時点では期待出来ないのではないかと思います。

2.本件の主たる責任者は誰で、そのリスクを理解しているのか?
一方で、本来リストラプランを作るべき債務者(日本航空)の代わりに、国土交通省が雇い入れた「代理人」が作成をしており、今回のリストラに伴うリスクは新規出資者である国が全面的に負う事になっていますが、国には恐らく「代理人」が作成したプランの実現性・実効性を評価する能力も、実行する能力もありません。一方でその「代理人」は、債権者である金融機関にリストラプランの実現を前提に巨額の支援を迫っている、といった状況です。

通常、債権者の立場で支援提供を行う上ためには、本件の主たる責任者が明確になっており、その主たる責任者が、「相当のリスクを負ってリストラを進める」ので実現性が高いと判断出来るという前提が成立する必要があると思います。しかし今回は、リスクを負うのは国ですがどんなリスクを負っているか恐らく把握しておらず、リストラプランの実現性・実効性は、債務者である日本航空役職員、及びOB(こちらは年金の受給者ですから債権者)の協力が得られるか不明な現時点であり、また「代理人」は本件が失敗に終わっても、風評以外のリスクは無い(または限られている)、ということですから、「支援」という話にはなりにくいのではないでしょうか。

3.国の資金導入をどの様に肯定化しうるのか?
今回の案件は、事業再生ADRを利用する旨が伝えられています。この制度は第三者機関に債権者との調整を委ねるものです。つまり主たる責任者たる「国」は、債権者との合意が実現するか不透明な状況、かつ債務者及び利害相反しうる他の債権者との調整もつかないまま、巨額の資本拠出と融資保障をする事になります。

そして、債権者調整が難航した場合、またリストラ(これは先の「代理人」が担当する様です)が予定通り進捗しないまたは効果を生まない場合、そのまま出資持分の価値が毀損することになります。最悪の場合、たとえば今後さらに赤字垂れ流しが続いた場合、再度出資が必要になる可能性もあり得ます。国が全面的に責任を負って行うには、かなり説明が困難なのではないでしょうか?また、他の再生事案の存在も考えると、「なぜ日航にだけ?」という指摘もありそうです。

本件を民間の出資者らが取り組むなら、上記の様な問題点はありません。出資者(本件では国の立場の組織)はこうした案件に参画することを期待されていますし、拠出する資金も「税金」では無い「リスクマネー」ですから、多少の危なっかしさも許容されます。「代理人」は完全に出資者と利害一致させるため、「代理人」に委託ではなく「主たる責任者」自信がその役割を担うでしょう。その責任者は債務者・債権者との調整が付か不明な段階では、資本を拠出することはしないでしょうし、債権者も出資者のコミットメントを見て、支援姿勢を判断する事が出来ます。

こうした点を考えると、今回の再生劇は非常に不自然に感じる中で、話が進んでいると思います。こうせざるを得なかった/こうなってしまった事情もあると思いますので、一方的に批判する事では無いと思いますが、上記の点の整理がつかないまま話だけ進んでしまうのは、非常に危険ではないかと、危惧する次第です。


日航が国交省チームを執行役員に
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/policy/308412/


国債発行44.1兆円以下にしなければ市場の信頼失う=財務相
http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR200910250007.html


債権放棄、銀行「のめぬ」 日航再建交渉本格化
http://www.asahi.com/business/topics/economy/TKY200910180308.html


日航再建、背水の政府 「負の遺産」処理が難題
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20091025AT3S2401M24102009.html

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